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教科書のサブスク化で資源を守りたい SDGs実現の主役は塾生!塾生主役の選抜プロジェクト・「塾生会議」の挑戦

Date.2024.08.19

#教科書サブスク化

#SDGs

#ビジネスの現実

「全ステークホルダーが損をしない教科書流通システムをつくりたい」。現代の大学が抱えるSDGsの課題に、学生ならではの視点で果敢に挑む塾生たちがいました。学生主体のプロジェクト「塾生会議」を中心に広がる慶應義塾のSDGsの取り組みと、現実の社会課題と真剣に向き合う現役塾生たちのチャレンジをお伝えします。

塾生発! 新しい教科書
システムへのチャレンジ

大学生が授業のために購入する教科書。1冊の本を製版するまでに7.46kgものCO2を排出しており、これはノートPCを約1,812時間使用した際の排出量とほぼ同じとされています。

※出典

Emma Ritch,(2009),『The environmental impact of Amazon’s Kindle』(2023/12/15閲覧)

株式会社ウェイストボックス,(2015),『CO21トンはどのくらい?』(2023/12/15閲覧)

このように多くのCO2を排出してつくられる教科書ですが、いざ使う側の学生にしてみれば、購入にかかる金額的負担が悩みの種になる場合も。先輩から譲り受けたり、中古品を買ったりなどして、工夫する学生も少なくありません。先生が該当ページのコピーを配布してくれたとしても、結局紙の消費量が増えてしまいます。

また、こうした工夫により教科書を買わなくて済む習慣がさらに根付いていくと、教科書を売る側の出版社は売り上げが減り、市場への大きな打撃となってしまいます。

  • 課題: 消費者視点 法学部法律学科3年生「3年間で教科書に52920円かかった・・・」
  • 課題:生産者視点 リサイクルでは利益が入ってこない
  • 課題:自然視点 1冊の本を製版するまでにCO2を7.46kg排出(ノートPC の約1812時間分)
  • 課題: 消費者視点 法学部法律学科3年生「3年間で教科書に52920円かかった・・・」
  • 課題:生産者視点 リサイクルでは利益が入ってこない
  • 課題:自然視点 1冊の本を製版するまでにCO2を7.46kg排出(ノートPC の約1812時間分)
  • 課題: 消費者視点 法学部法律学科3年生「3年間で教科書に52920円かかった・・・」
  • 課題:生産者視点 リサイクルでは利益が入ってこない
  • 課題:自然視点 1冊の本を製版するまでにCO2を7.46kg排出(ノートPC の約1812時間分)

消費者・生産者・自然環境、三者それぞれの視点からも、どこかデメリットを抱える現在の教科書システム。この仕組みを、誰もが得をする持続的なものにできないか。

塾生たちが導き出したコンセプトは、「教科書のサブスクリプション」と「電子化」でした。実現すれば、CO2の排出量と紙の使用量を抑えることができ、学生もより少ない金額で様々な本を読むことが可能に。出版社側にもサブスク利用料が利益として還元されるようになるという想定です。

現状の課題に立ち向かう、理想的にも思えるこのアイデアが生まれたのは、現役の塾生たちがSDGsに本気で取り組む、“塾生会議”の場でした。

主役は塾生たち!
SDGs実現に声を上げて
アクションを起こす塾生会議

2023年12月、全学部から選抜された100名規模の塾生とサマーキャンプに参加した一貫教育校の生徒が集まり、SDGsを実現するために慶應義塾が目指すべきビジョンについての提言を学内で発表。グリーンカーテンの設置やフードバンクへの寄付など、環境問題や地域社会への貢献に関わる20を超える提言が、塾生から直接塾長に提出されました。塾生の声をダイレクトに慶應義塾に届ける――。この光景は「塾生会議」によって生み出されたものでした。

What’s 塾生会議?

塾生会議は、塾生がSDGsについて学び、実現のための目標やアクションを提言する場として、2022年に発足したプロジェクト。

年度ごとに全学部から学生を募り、各分野の専門家との交流やディスカッションを重ね、提言を作成するために活動。1年を通じて練られた提言・企画は学内で精査され、継続できると評価された企画は実際に採択されます。

定員には公募枠に加えて、大学側が無作為に選んだ抽選枠を用意。低関心層も含め、多様な学生がお互いに触発し合うことを目的とする、国内では珍しいスキームです。また、全塾的な取り組みとして位置づけられ、サマーキャンプや塾長への提言発表会には、学部生以外に一貫教育校の生徒も参加。一貫校と大学、教員と学生、SDGsに関心のある学生と関心の低い学生など、様々な世代や立場が一丸となって課題と向き合う、義塾社中のつながりを活かした取り組みなのです。

慶應義塾が打ち出す様々なSDGs施策の中でも、「大きな一歩」として位置づけられ始動した塾生会議。その意義は、SDGsについて学ぶ場として終わらず、塾生たち自身が企画実現のためにアクションを起こす点にあります。

新たなリサイクルの仕組みを実現するため企業と交渉するのも、
SDGsの認知向上のためイベントを実施するのも、
塾生自身が責任を持って行動する。
将来世代の当事者としてSDGsの実現を図る大きな流れが、
塾生会議を起点に育まれつつあるのです。

慶應義塾 常任理事 奥田 暁代

「新しい教科書システムをつくる」という目標も、元々は塾生会議でSDGs12「つくる責任・つかう責任」について塾生が議論する中で、資源のリサイクルの視点から生まれたものでした。

ハードルの高い教科書業界。ビジネスの現実を体感する
塾生たち

当初はリサイクルをメインに、教科書を含めた不用品をフリーマーケット形式でやりとりできるシステムの検討から始まった教科書プロジェクト。議論を深める中で、より広いエコシステムに目を向けるようになり、教科書のサブスク化・電子化へたどり着きます。

しかし、教科書や参考書は実際に社会で売買されている商品。その背後には出版社をはじめとする多くのステークホルダーがいます。そこでプロジェクトに参加した塾生たちは、慶應義塾内の関係者や出版社、専門家へのヒアリングをすることに。

実際に意見を交わしていく中で見えてきたのは、
これまで教育機関と出版社が築いてきた文化や、著作権の課題、
小規模な出版社における教科書販売の重要性、
電子化やサブスクを実装する際のシステム上の課題でした。
教科書に関わるすべてのステークホルダーに利益をもたらしたい、
との思いを叶えるためには、様々な現実の障壁があることを学びました。

慶應義塾 教科書サブスク化
プロジェクト メンバー

一方で、教科書のサブスク化実験を実際に行った研究者へのヒアリングからは、導入による学生の学習状況の改善など、新たなメリットが生まれている点についてアドバイスがありました。また、メディアセンター(慶應義塾の図書館)の職員からは、コロナ禍の影響を受けて、慶應義塾大学と早稲田大学の間で学術書の電子化を進める「早慶和書電子化推進コンソーシアム」が推進されるなど、プロジェクトの追い風になるようなサービスについて説明を受けました。

プロジェクトは、「教科書のサブスクリプション」「教科書の電子化促進」「教科書の二次流通」の3つの軸で進められていましたが、著作権など、現時点ではクリアできない課題が多く、残念ながら検討課題をまとめて、一旦プロジェクトをクローズすることになりました。しかし、それはあきらめではありません。目標を実現させるために様々な人と対話し、障壁を知り、今は難しくても未来に向けて課題を解決する力をつけることも「塾生会議」の活動から得られる果実なのです。課題を解決する力を持った学生たちが、国内外様々な場所や方法で、SDGsの理念のもと社会をより良い方向に変える力をつけること、さらにはその学生たちが全社会の先導者となるべくSDGsの芽を育むことを目指しています。

Presentation

アクション 時代の変化に合わせた3つのアクション 教科書のサブスクリプション 教科書の電子化促進 教科書の二次流通
まとめ 目標 2030年までに慶應で100%教科書を電子化し、他大学のロールモデルになる ターゲット2025 慶應に新しい教科書システムを導入 3つのアクション ・サブスクリプション ・電子化 ・二次流通

塾生たちが作成した
提言資料より一部抜粋

大きな理念を掲げるのはある意味では簡単。
難しいのは実現させることです。

慶應義塾 常任理事 奥田 暁代

塾生会議とプロジェクトの運営を担当する奥田暁代常任理事は、塾生たちの試行錯誤をサポートしながら、SDGs浸透の難しさを実感しています。「足元の現実を変えるためには、SDGsに関心が薄い人々も巻き込み、協力してもらう必要があります。しかし、人を動かすのは一筋縄にはいきません」

一方で、学生ならではの工夫が光り、想定以上の成功を得た例もあります。ペットボトル消費量の削減を目的として、学内にウォーターサーバーを置き、マイボトルの使用を奨励する「ウォーターサーバープロジェクト」がその一例です。

奥田理事は「スタンプラリーやオリジナルボトルのプレゼントなど、教育者の視点だけでは生まれないアイデア」と振り返ります。「塾生なりの視点で方法を工夫すれば、SDGsの浸透は可能だと行動で証明する。まさに塾生会議という枠組みがうまく活かされたプロジェクトでした」

社会と向き合うからこそ
生まれる失敗や成功。
かけがえない経験を
「社会を変える力」へつなぐ

実現の過程で試行錯誤を重ねる塾生の姿に、奥田理事は手応えを感じています。

取り組みのはじめは上手くいかないことも多く諦めがちです。
それでも、活動を続けていく中で、
塾生が目に見えて成長していくのを実感します。

慶應義塾 常任理事 奥田 暁代

一方で、アイデアが実を結ぶには時間がかかります。提言の中には、卒業までの限られた時間では実現が難しいような企画や、大きなアイデアもあります。しかし、塾生会議の枠組みがある限り、世代間で取り組みは継承されます。個人では解決が難しい問題も、より長い時間軸で取り組むことができるのです。

また、塾生会議への参加により、塾生は、自分自身の目で世界の問題を捉え、自分の責任のもとに行動する経験を積み、巣立ちます。実際にアクションを起こす難しさを知り、塾生会議の経験を糧に、一人の社会人、塾員として、再び社会課題に向き合うのです。

世代間で社会課題と向き合う志と取り組みをつなぐ実証実験の場であると同時に、経験を積んで社会課題に取り組む塾員を生み出す場でもある塾生会議。社会を変える力、未来への足がかりを築く挑戦はまだ始まったばかりです。

SDGs実現に向けて声を上げ、
アクションを起こす塾生たちに
興味を持ってくださった方へ​

慶應義塾では、今回ご紹介した塾生会議のように「未来の先導者を育むプログラム」を
実行・展開していく
ため、慶應義塾維持会への入会を募集しています。
ご興味を持たれた方は、基金室までお気軽にご相談・お問い合わせください。

募集中の寄付メニュー一覧はこちら

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