支えられた研究の日々が、
社会に還元されるまで

慶應義塾での10年間のうち、特に大学院に進学してからは、研究に没頭する日々を過ごしました。学部５年次の実務実習で、薬の副作用に苦しむ患者さんと出会い、本来は人の役に立つはずの薬が、逆に害をもたらしてしまう現実に直面。その経験から「少しでも副作用を減らしたい」と考え、大江知之先生のもとで、安全な医薬品の開発に必要な新たなトラッピング剤の研究に取り組み始めました。

とはいえ、研究生活は順調ではなく、化合物の合成に何度も失敗し、「本当にできるのか」と気持ちが折れかけたこともありました。それでも先生のサポートのおかげで開発に成功し、論文として成果を発表。卒業後には試薬会社から声がかかり、市販化まで実現しました。自分の研究が、安全な創薬の現場で少しでも役立っていると考えると、大変うれしく思います。

当時は本当に恵まれた研究環境を与えていただいていたと、今改めて感じます。まず「研究のすゝめ奨学金」のおかげで経済的な不安なく研究に専念することができました。また、研究費の援助も大きな支えでした。合成に必要な試薬は学生が気軽に購入できるものではありませんが、支援のおかげでやりたいことをすべてやり切り、成果を出すことができました。

当時はそこまで意識できていませんでしたが、社会人になり、寄付の案内が届くようになって、これらの支援が多くの寄付者の方々によって成り立っていたことに気づきました。その支えがあったからこそ、研究に集中でき、成果を通じて社会に貢献できました。そう考えると、学生のうちにもっと感謝の気持ちを持つべきでしたし、今からでも、いただいた支援を何らかの形で返していきたいと考えています。

看護×経営で切り拓く未来
慶應で見つけた私のキャリア

現在の「看護と経営を組み合わせたキャリア形成」は、かなり早い段階から意識していたと思います。看護への関心は幼稚園時の入院経験、経営は大手企業に勤めながらリストラを経験した父の姿がきっかけでした。ちょうど私が大学に進学する年に、慶應義塾大学に看護医療学部が設立されたのは、本当に運命的。歴史ある慶應看護に加え、SFCでは経営的な学びもできる。「ここしかない」と思い、受験して1期生として入学しました。

1期生として、「自分たちでこの新しい学部を創っていく」という意識がありました。実際に看護医療政策学生会というサークルを立ち上げ、現在も後輩のサポートを続けています。一方で、そこはやはり慶應義塾。歴史の浅い学部であっても、学びのカリキュラムは非常に充実しており、医学部・薬学部との連携や人脈のネットワークも圧倒的でした。慶應義塾大学病院でのアルバイト、ホスピスでの看護実習で初めて経験した看取り、そしてアメリカへの海外研修での経験は、起業へのビジネスプランに直結しています。

福澤先生の教えである「社会を先導すること」は、今も常に意識しています。私にとっての「先導」とは、自分だけで問題を解決するのではなく、解決への道筋を切り拓き、他の人たちにも示すこと。そうすることで、課題の解決を加速させ、より効果的に進められると考え、起業後も事業を進めてきました。学生には、「自分の好きなこと」と「得意なこと」、この2つの最大公約数を見極めてほしく、それを掛け合わせたとき、初めて「先導」につながるキャリアが築けるのではと思います。私の場合はそれが「看護」と「経営」でした。後輩の皆さんにも、ぜひ見つけてほしいと願っています。