よりよい未来を信じて、自由な心でチャレンジしてほしい
――森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士 堀 天子 君
CONTENTS
- 1)学生時代に取り組んだこと
- 2)法曹界に進んだきっかけ
- 3)弁護士になると決意した
- 4)弁護士としてのやりがい
- 5)金融庁で法案を作った
- 6)仕事と子育ての両立
- 7)チャレンジしたいこと
- 8)慶應義塾教育充実資金について
- 9)慶應義塾に期待すること
- 10)塾生へのメッセージ
企業法務弁護士として金融系サービス分野をはじめ、さまざまな分野のスタートアップや新規事業開発をサポートする堀 天子君。「日本が活性化するためには新しいものを生み出す力が根源的に大事」と語る堀君が三田キャンパスで10の質問に答えてくれました。
(Q.1)学生時代に興味をもってやったことは何ですか?
中等部から慶應義塾女子高校を経て、慶應義塾大学法学部で学びました。中等部時代は好奇心が旺盛で図書館に並ぶあらゆる本に興味を持ち、国内外の歴史書からノンフィクションまでいろいろなジャンルの本を読み漁りました。なかでも3億円事件など社会的に未解決の事件が多くあること、それらの社会的な背景や心理に関心を持ったことで後の検察官になるという夢につながります。
高校時代はバトン部に所属し、チアリーディング部門の大会を目指して仲間と一緒に練習に明け暮れました。大会を目標にする傍ら、野球やサッカー、アメリカンフットボールなどの応援に行き、スタンドで塾生のみなさんと一体になった思い出は印象深いです。
(Q.2)法曹界に進もうと思ったきっかけは何ですか?
大学は法学部政治学科に進み、国際政治、政治史や社会学に興味を持って勉強しました。一方で、法曹になりたいという将来の夢をかなえるため、司法試験を目指すことにしました。大学2年生のとき、中等部の展覧会で同窓会の部屋をお手伝いしていたところ、当時中等部部長で法学部教授であられた平良木先生に偶然声をかけていただき、政治学科からもゼミに入れると伺い、入ゼミ試験を経てゼミに入れていただきました。平良木ゼミでは刑法や刑事訴訟法を中心に法律の根本的な部分の理解から勉強し、法曹界に進むなら実務家になるべきだという教えと、判例を学び本質を見据えて論理的な思考を大事とする指導に感銘を受けました。司法試験に向けて全員合格するという意気込みで合宿するなど、同じ志を持つ仲間が意欲的に勉強できる環境を整えていただいたことに感謝しています。
一人一人の性格を見抜かれたご指導と思っていますが、楽観的な私には、「君は司法試験に合格するまで少し時間がかかるだろうね」と言われ、奮起して勉強したところ、在学中に合格することができました。法律家の第一歩を踏み出すことができたのは、ほんとうに平良木先生のおかげです。
(Q.3)弁護士になると決意したのはいつですか?
司法研修所に通うまでは検察官になることを目指していました。しかし同期の司法修習生たちと東京の弁護士事務所を訪問するなかで、企業法務の世界に出会い、衝撃を受けたのです。企業が社会の中で果たしている役割の大きさを知るとともに、企業にまつわる事件や論点には未知のものも多く、知恵を絞る必要があることを知りました。また、訪問中、ほとんどの事務所は代表弁護士が中心にいて、まわりに若手弁護士が控えているという構図でしたが、現在所属する事務所だけは逆で、一番若手の弁護士が前に出て話をしてくれ、その後ろでシニアの弁護士が頷いている。「すごく活気があって面白い事務所だな」と思いました。そして企業を守るという観点から企業の経済活動に寄与し、社会を牽引していく気概が伝わってきました。そのダイナミックな仕事に惹かれ、企業法務にかかわって自分の世界を広げたいと思い、当事務所で弁護士になる道を選んだのです。
(Q.4)弁護士としてのやりがいは何ですか?
私が担当している会社は、デジタルサービスやプラットフォームを提供する会社が多く、裁判の仕事もあるのですが、それは一部。その前から企業活動にかかわり、新商品や新サービスなど新しいものを創り出すために、私たち弁護士のアドバイスが必要とされます。企業活動には多くの関係者がいて、さまざまなステークホルダー(株主、取引先、利用者等)が存在する。新しいことを始めるためには時に規制も打ち破らないといけない。そのダイナミックな企業活動を法務面からサポートするのは弁護士ならではの醍醐味です。事件を解決していく仕事も社会には必要ですが、企業活動を通して日本の経済を回し、雇用を生み出し、ステークホルダーの生活を豊かにしていくことに微力ながら貢献できるところに、弁護士としてのやりがいがあります。経済や金融が社会を動かしていることを密接に感じられる仕事です。
(Q.5)金融庁で法案を作る経験もしていますね?
現在の事務所に入所して7年ほど経った2008年頃から、金融庁へ出向する機会がありました。1998年に金融監督庁として財務省から独立して出発し、2000年に発足した金融庁は、新しい組織で新しいことをやろうという気概が感じられ、忙しくも充実した1年3カ月でした。2000年前後でネット銀行やネット証券が設立されましたが、その後、事業会社がITを活用して金融サービスを提供し始めたことに対応し、イノベーションにも配慮しつつ必要な事業者を登録制の下で受け入れる規制の法案作りに参加しました。法律を作るという経験はもちろん初めてだったのですが、これまでとはまた違った世界の広がりを感じることができましたし、出向中に民主党政権が発足して政治も激動の時期で、官僚の側から政治の世界もみることができて、なかなか面白い経験でした。
(Q.6)仕事と子育ての両立はどうしていますか?
両立はしていません(笑)。仕事とともに生活があるという感じでしょうか。これまでキャリアを中断せずに、9歳と0歳の子どもを育ててきました。仕事をしながら子育てをするのは結構たいへんなことだと実感しています。そのために仕事を辞めてしまうという選択をする人も多くいるほどです。第1子が生まれた9年前は朝早くに保育園へ送っていき、夜ご飯も食べさせてもらっていました。緊急時には子どもを迎えに行き、事務所に連れてきて会議をしたり、子どもが泣かないように非常に気を使って電話をしたりすることもありました。9年前より今は格段に社会の理解があると感じています。何より技術の進歩でリモートワークができるようになったのは大きいです。仕事も子育てもしたいというパッションで走っています。
(Q.7)これからチャレンジしたいことは何ですか?
現在は金融系の分野に加え、その他の事業者からもデジタルやDXで何かしたいという相談を受けることが増えてきました。スタートアップや新規事業開発など、企業が夢に向かって進むときに頼りにしてもらえるのが弁護士。すごくやりがいのある仕事であり天職だと思っているので、この先もずっと続けていきたいですね。
それとは別に自分自身でも社会に貢献できることを継続していきたいと考えています。官庁に出向し、社会の問題を多く見てきました。スタートアップを中心とした業界団体の立ち上げにも関与しました。日本の将来が少しでも良くなるよう、内閣府の規制改革や国家戦略特区の議論に参加するほか、ビジネスを進めるためのサンドボックスの活用やグレーゾーンの明確化、規制緩和に向けた活動など、社会課題の解決に向けてチャレンジしています。子どもたちが生きる時代を考えると危機感を覚えます。日本が活性化するためには新しいものを生み出す力が根源的に大事。優秀な人材が海外へ流出してしまわないよう、誰もがチャレンジできる社会を創る必要があると思います。そして、チャレンジした人が報われる社会であってほしいですね。
(Q.8)慶應義塾教育充実資金の取り組みをどう思いますか?
一人ひとりがチャレンジするには、教育や社会の受け皿が必要になります。そういう意味で『慶應義塾教育充実資金』は、一貫教育校から大学院までを対象に先端教育をしていく取り組みで、すばらしいことだと思います。国際社会を先導するリーダーとなる人材の育成を目指すことは、福澤諭吉先生が唱えられた義塾の理念に沿った意義があること。今回、このような機会をいただいたので、私も趣旨に賛同して寄付をさせていただきました。
先端教育というと自分には関係ないと思う人もいるかもしれませんが、一人ひとりの個人に着目し多様性に配慮した教育や、新しい活動やデジタル化への投資をしていただきたいです。
(Q.9)慶應義塾に期待することは何ですか?
中等部から入学して大学卒業まで10年間、慶應義塾で学んだことが自分のあふれる好奇心を結実させてくれ、感謝の気持ちでいっぱいです。
慶應の教育はフラットで男女平等の精神に裏打ちされたものでした。性別に関係なく自分でやりたいことを見つけて生活力を身につけようという教えは、私の土台になっています。自分の人生は自分で選択していいのだと吹っ切れ、「やりたいことをやろう」と法曹界を目指すきっかけになりました。また、起業家精神(アントレプレナーシップやイントレプレナーシップ)も慶應の教育から学んだことの一つです。
これからもチャレンジしたい人には、誰にでも機会があるということを教えていただき、後押ししていただければと思っています。
(Q.10)塾生へのメッセージを!
一度きりの人生だから、ぜひよりよい未来を信じて、自由な心でやりたいことにチャレンジしてほしいですね。どんなことでも、チャレンジをすると、自分の能力が限界を超えてストレッチする感覚があり、見えなかった世界が見えてきます。そのためのすばらしい環境が慶應にはあります。急がず、いろいろなものを見て、ときには寄り道をしてもいい。法学部法律学科ではなく政治学科に入学した私が、こうして法律家になることができましたし、両方の経験が今の仕事につながっています。自分のやりたいことをあきらめず、自由にチャレンジさせてもらったからこそ、今があると思っています。何でもいいのです。自分の情熱を燃やせるものを見つけて一所懸命に取り組めば、何かにつながっていくと思っています。慶應を卒業してからも塾員のつながりでチャンスが広がりました。慶應は私の拠りどころです。
※掲載内容は2023年1月23日現在のものです。