特集記事

木を植えて収穫するには最短でも50年、
広葉樹では100年以上かかります。
しかしそれは子供たちの教育や
環境にとってなくてはならないものです。
――林業三田会世話人代表 岸 三郎兵衞 君


慶應義塾高等学校から慶應義塾大学商学部へと進み、卒業後は山形県にUターンして家業である林業に就いた岸 三郎兵衞 君。林業三田会として慶應義塾の育林活動も支援してきた岸君に、これまでの活動や今後の展望、慶應義塾への思いなどを語っていただきました。

Q.1 林業三田会の活動を教えてください。

義塾の財政に寄与することを目的として発足。


林業三田会は昭和38年に発足し、昭和41年に栃木県の那須で最初の山林造成を行っています。私はその5年後、昭和46年頃から林業三田会の活動に参加しました。当時は林業が元気な時代で、木材需要も旺盛でしたので、山林造成は慶應義塾の財政基盤づくりに寄与することを目的としていたようです。林業三田会の創設メンバーには、元塾長の高村象平 君や義塾関係者数名に加え、私の父親も名を連ねていました。メンバーのみなさんと一緒に山へ行って植林・育林をして将来に思いを馳せたことを覚えています。数十年後には慶應の森で育った木々を収穫して、校舎とまではいかないまでも山小屋の一棟くらいは建てられるだろう。そんな思いから、国の山林保護と義塾の財政貢献への使命感をもって育林活動に精を出しました。

Q.2 慶應の森について教えてください。

全国に東京ドーム約34個分の面積の山林を持つ。


日吉や湘南藤沢キャンパスも自然豊かな森に囲まれていますが、これとは別に北は宮城県から南は和歌山県まで、慶應義塾は各地に合計約160ヘクタールの山林を所有しています。これは東京ドームでいえば約34個分の面積。これらを「慶應の森」と呼び、山林の育林活動を支援しているのが「福澤育林友の会」です。この会の創設目的は山林を教育の場や交流の場として幅広く活用し、義塾の人材育成に役立てるというもの。現在でも幼稚舎の児童から大学院生までがこの広大な山林で植樹や育林体験をしています。会員のみなさんの山形研修旅行を私が案内したこともあります。私の拠点である山形県最上郡金山町は樹齢250年を超える大美輪の大杉と金山杉で有名ですが、これらを利用した美しい街並みを見学していただき、私が経営するカムロファーム倶楽部で懇親会を催しました。翌日は山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所を見学したのも記憶に新しいところです。

Q.3 林業三田会の今後の展望を教えてください。

植林した木が質的・量的にも収穫できる時期に。


造林した山林は後世にまで残りますので、私たちがその管理に関わっていき、なんらかの形で義塾に恩返しをしていきたいと考えています。現在、最初に植林してから約60年になります。木が70年、80年と育つと、いよいよ収穫の時期です。宮城県の志津川山林は義塾の所有林ですから義塾の判断で木を伐ることができますが、その他の国有林を分収契約している山林では、その収穫を国と義塾とで分ける契約になっています。現在は植林当初に比べて木材価格が下落しているので、70年を経た時点で山林をどうするか協議することになるでしょう。いずれにしてもその頃になると、植林した木が質的にも量的にも収穫できる時期になります。木材を利用してなんらかの形にできると思います。実際に志津川の木材が日吉協育棟(慶應義塾高等学校内)や三田インフォメーションプラザなどの建設に利用されたこともあります。それが経済的なメリットにつながるかどうかは別として、義塾で植林した木材を学び舎の一部に利用することの意義は大きいはずです。

Q.4 今回ご寄付をいただいた思いを聞かせてください。

有形無形の恩恵を受けてきた義塾に恩返しを。


伊豆修善寺にある幼稚舎の杜が今年度(2019年度)に20周年を迎えました。幼稚舎の児童と一緒に植樹体験にも参加することができるこの取り組みが、若い人材育成の一助になればとの思いから、林業三田会としても引き続きお手伝いをしていきたいと考えております。それから私事ですが、林業三田会の発足に関わった父親は熱狂的な塾員であり、私そして私の二人の子供も塾員です。さらに孫も入学することになり、4世代が義塾にお世話になることになりました。これまで義塾出身ということで有形無形の恩恵を受けてきたからこそ、今日の私たちがあります。さまざまなご縁に感謝しまして、70歳になった記念に、小泉基金にお役立ていただきたいと思い、個人としても同基金に寄付をさせていただきました。

Q.5 慶應義塾への思いを聞かせてください。

義塾での学びは人生のアドバンテージになる。


「福澤育林友の会」や「森を愛する人々の集い」の活動で、昨年6月、湘南藤沢キャンパスの白井ゼミに招かれ、お話をする機会をいただきました。ゼミ生の皆様は林業には全く関りを持たない方ばかりかと思うのですが、ほんとうに熱心に聴講していただきました。その、話を聴く姿勢に私のほうが感銘を受けたくらいです。一貫校の生徒さんたちも、塾生のみなさんも、ほんとうに頑張って勉学に励んでいらっしゃいます。義塾で学んだ、義塾を卒業したという事実が、これからのみなさんの長い人生において、いろんな意味でアドバンテージになるでしょう。それを追い風にして、これからの人生を進んでいかれると良いと思います。私が生業とする林業に話を戻すと、木を植えて山を育てるというのは経済的にはかなり厳しい時代かもしれません。しかし一方で、木の質感による優しさや、子供たちの教育や環境に及ぼす影響は木ならではのものがあります。50年、あるいは100年以上かけて育つ木のアドバンテージを生かして、さまざまな分野に寄与できたら良いですね。

福澤育林友の会にご関心のある方はこちら

※掲載内容は2019年11月5日現在のものです。