山中湖合宿では、日曜も祭日も休まず約半世紀、
塾生・塾員のお腹を満たしつづける。
――山食三代目社長 谷村忠雄 君
谷村忠雄 君が山食へ入社したのは、昭和30年。当時はまだ戦後の雰囲気が残り、三田キャンパス周辺に外食屋はほとんどなく、食料を調達するのにも苦労していたそうです。以来60余年、日曜・祭日以外は休まず塾生・塾員のお腹を満たし続けてきた谷村 君に塾生との思い出、小泉信三先生との思い出、そして山食カレーの美味しさの秘密をお聞きしました。
Q.1 塾生との交流で一番の思い出は?
毎年、夏の山中湖合宿で食事を作りつづけました。
私は昭和30年に山食へ入りました。もう60年以上になります。当時は三田界隈も戦後の匂いがプンプンしていましたね。コッペパン1個が10円くらいだったと記憶しています。食料が少ないものだから、材料の買い出しも一苦労でした。塾生との思い出ですか?やっぱり山中湖の合宿ですね。昭和30年から平成15年くらいまで49年、毎年夏になると山中湖に行っていました。ラグビー部などの体育会の合宿所で朝・昼・晩の食事を作るんです。ラグビー部は部員が約200人もいて、彼らが朝7時から一斉に食べますからね。私は毎朝4時に起きて準備をしていました。朝食の後片付けをすると、すぐに昼食の支度、夕食の支度が待っているので休憩している暇はないんです。合宿所だから日曜も祭日もありません。夏休みの間、ずっと50日間くらい働き通しでした。今となっては良い思い出ですが(笑)。
Q.2 小泉信三基金にご寄付をいただいた思いは?
小泉先生の名を冠した基金に貢献したい一心です。
(出典:三木 淳 写真集(監修:慶應義塾、美術出版社)
小泉先生が三田キャンパスにいらした頃から良くしていただきましたから、慶應義塾にこんな基金があるのなら貢献したいという気持ちから寄付をいたしました。小泉先生とのエピソードはたくさんあります。私が山食へ入った昭和30年ごろのことです。お昼休みに小泉先生がご飯を食べに来られて、昼食が済んでお帰りになるころ、雨がザーッと降ってきました。それで私が傘を持って今の第1校舎の入口まで送ることになったんです。外に出て先生が濡れないように傘を広げました。すると、私はこんなに背が低いのに、先生は背が高いんですよ。もう背伸びをしながら傘をさしてね、送っていきました……そのときのことが忘れられません。
小泉先生には二人の娘さんがいらっしゃいました。そのお二人の結婚披露宴の料理は山食で作って会場までデリバリーしたんです。クリスマスには鶏の丸焼きやクリスマスケーキなどを作って、ご自宅にお持ちしました。当時、山食社長の奥さんの白寿をお祝いする会があって、そこへ次女の娘さんをお呼びしたこともあります。そのときのお礼の手紙や当時の写真も残っています。
Q.3 慶應義塾での印象深い出来事は?
創立150年記念式典の最前列で天皇陛下(現上皇陛下)のお話を聞きました。
2008年に行われた創立150年の記念式典のことです。日吉のグラウンドに約1万人が参列したんですが、私の席がなぜか最前列でした。式典では現在の上皇陛下と上皇后陛下がいらっしゃってスピーチをされました。前列の近い席でお話を聞いたことが最も印象に残っています。それから、ありがたいことに特選塾員に推薦していただきました。塾長から表彰を受けたのも印象深い出来事です。スポーツでは昭和35年の野球部ですね。代々語り継がれている秋の「早慶六連戦」がこの年。熱くなったことを今でも覚えています。当時の慶應の1番・遊撃手でスター選手だった安藤 君は私と同郷、同い年で、のちにプロ野球の阪神タイガースで活躍され、監督も務められました。今の塾生のみなさんも優勝すると、三田キャンパスの中庭で祝勝会をやるんですが、近隣に配慮し、午後8時半をめどに終了するようです(笑)。
Q.4 山食名物といえばカレーですが?
うちのカレーはすべて手作り、オリジナルの味です。
卒業生である塾員のみなさんは、今でも山食にいらしてカレーを食べて行かれる方が多いですね。三田キャンパスの思い出の味と言ってもらえるのは、本当にありがたいこと。うちのカレーはルーからすべて手作り、オリジナルの味です。週の初めに1週間分のカレールーを作り、それを毎日継ぎ足ししながら、その日に肉や野菜を炒めて仕上げるんです。カレーは寝かせると美味しくなりますから、週の後半になると美味しさが熟成されます。だから、レトルトカレーのパッケージには「金曜日の味」って書いてあるでしょ。卒業生の方が山食に食べに来られたときに、懐かしいから持ち帰りたいと言う方がたくさんいたんですよ。なかにはタッパーを持って来て、これにカレーを入れてくれと言う方もいました(笑)。そういう要望もあって5年ほど前に山食カレーのレシピで作ったレトルトカレーを発売したんです。遠く離れた地方にいらっしゃる塾員のみなさんにはもちろん、当時の塾長にもレトルトカレーは好評でした。
Q.5 最後に塾生・塾員にひとこと、お願いします!
塾員のみなさんの活躍が励み、楽しみにしています。
私は山食に入社した当時から愛塾精神が強くあります。もう愛塾精神だけでやってきたと言ってもいいくらいです。だから、慶應義塾の体育会は野球部でもラグビー部でもすべて応援しています。もちろん、塾生や塾員のみなさんも応援しています。ニュースで塾員の方が活躍されているのを知ると励みになります。そういう良いニュースに触れるのを楽しみにしているんです。慶應義塾の真価は、やはり卒業生のみなさんの活躍で決まると思っています。塾生・塾員のみなさんには社会に出てからどんどん活躍していただいて、慶應義塾を進化させていってほしいです。そして……お腹がすいたら、いつでも山食に立ち寄ってください。
※掲載内容は2019年10月18日現在のものです。