インタビュー:野口 幸希 君/慶應義塾大学 薬学部

新しいことに挑戦し続けたい。
その思いを後押ししてもらえるのが福澤基金による支援です。
――慶應義塾大学薬学部 野口 幸希 君

緊急事態宣言発令中であったため、オンライン方式でのインタビューと、最少人数での撮影となった今回の取材。快く対応くださった慶應義塾大学薬学部の野口 幸希君はどの質問にも丁寧に言葉を選びながら答えてくださいました。「解決法がなく苦しんでいる人の力になるのが研究者としての私の使命」と語る真剣なまなざしが印象的な野口君に、研究活動の魅力や教育者としての思いを聞きました。

Q. 薬学の道を志したきっかけは何でしたか?

A. 最初は実家の薬局を継ぐという動機でしたが、慶應で学ぶうちに研究の道へ進みたくなりました


生まれ育った実家が薬局で、両親ともに薬剤師をしていました。そうしたこともありわりと自然に実家を継ぐために薬学の道を志したんです。最初は研究職ではなく、薬剤師になろうと思っていました。慶應義塾大学薬学部には薬剤師を目指す6年制コースの一期生で入学し、国家資格を取得して一度は薬剤師として病院に勤務していたこともあります。
しかし6年生のとき、未来先導基金のプログラムに参加してアメリカの大学病院で実習をする機会に恵まれ、アメリカの薬学生や薬剤師と会話したり考えを聞いたりしたときに強い衝撃を受け、薬学教育に興味を持ちました。また、アメリカの学生と研究の話をすると、ものすごく食い付いてくるんです。「言語は違っても研究で世界とつながれるんだ。」そう感じたのがきっかけで研究者として研究活動に携わりたいと思うようになりました。
その後も大学院博士課程在学中に、「スーパーグローバル大学創成支援事業」の下、アメリカの大学で研究指導を受ける機会を得ました。そのとき出会った学生とは今でも研究で行き詰ったときなどに質問をしたり、学会で話をしたりと関係が続いていて、慶應義塾の充実した人材育成制度の恩恵を受けています。

Q. 現在、どのような研究を行っていますか?

A. 福澤基金の支援を受けて、妊娠合併症が胎児の環境に与える影響について研究しています


現在は妊婦や胎児・新生児の病気に対する新しい治療法を探すための基礎研究を行っています。福澤基金にサポートをいただき、妊娠合併症において変動するmiRNA(マイクロRNA)*が胎盤に与える影響について研究を進めています。
研究は通常、仮説を立てて再現性をとりながら検証していくのがプロセスになりますが、なかなか仮説通りに進まないのが難しいところです。研究の過程で予想外のことがよく起こり、実験が不首尾に終わってしまうことが多くあります。一方で、たとえ想定通りに進まなくても実験結果と向き合うことで多面的に考えるきっかけになり、新しい研究テーマにたどり着くこともあります。研究が思い通りに進むことはまれですが、予想外のことが起こるからこそ、新たな着想が生まれるのだと思います。
今回の研究も、元は別のテーマにおいて仮設通りに進まなかった結果から始まったものです。妊婦の病気によって変動しているけれど、胎盤でどういう役割をしているのかわからないmiRNAに着目して、胎児の環境に何らかの影響を与えているのではないかと仮説を立てて研究を始めました。miRNAの変動の違いが胎盤にどのような影響を与えるかを調べることで、将来的には、胎児への薬物の移行や胎児の栄養状態を予測するための情報を提供したり、妊婦さんが病気の時に胎児環境を積極的に制御する試みにつなげられればと思っています。

*miRNA(マイクロRNA)とは、遺伝子発現を抑制する効果を持つ21~25塩基程度の一本鎖RNA。ゲノム上にコードされているが蛋白質へは翻訳されないnon-cording RNAで、分化、細胞増殖、アポトーシスなど生物にとって欠かすことのできない生命現象に深く関わっていると考えられている。

Q. 研究活動を続ける魅力は何ですか?

A. 慶應義塾在学中に影響を受けた恩師のひと言が印象的でした


研究は仮説通りに進んでも進まなくても新しいことに触れられるのが魅力だと思います。私が研究活動を続けたいと強く思ったきっかけは、学部在学中に出会った恩師の影響が少なからずあります。そのときに言われたのは、「大学を卒業するということは新しい文化を生み出したということ」というような言葉でした。「私たちには先人たちが築いた文化をつなぎ、さらに進めていく使命があります」と。それまで研究には興味がなかったのですが、そのひと言から研究をすることで自分がクリエイティブになれるんじゃないかと思い、研究活動に前のめりになりました。自分自身で新しいことに挑戦して、新しい文化を創っていける。そこが研究活動の一番の魅力ですね。
私は学部と大学院でお世話になった恩師の姿に憧れて今日まで研究活動を続けてきました。その先生は情熱的でありながらチャーミングで、本当にロールモデルといえる女性研究者です。恩師への憧れから始まり、恩師に育てていただいたと言っても過言ではありません。
私が教員になって1年くらい経ったころに言ってくださったことは今でも私の心の支えとなっています。私自身はこの仕事が向いているかどうか悩んでいたのですが、「野口さんは大学教員に向いていると思うわ」と。その言葉を信じてやってきました。恩師のように次世代の研究者を育てられる研究者になりたい。この思いが、研究活動で大変なときでも私を支えているのです。

Q. 研究活動を通しての人材育成は大変ですか?

A. ゼミの塾生30名と向き合う毎日です


現在、研究室には30名の塾生がいます。研究室のスタンスとして、塾生とのディスカッションの時間は何があっても大切にしたいと思っています。私自身もそうしてもらって、学び、成長してきたので、研究活動を通して教育をする研究者でありたい。自分のアイデアを塾生と共有して実現できる、または塾生のアイデアで自分の考えが深まることがあります。だからこそ、研究室に集う塾生と真剣に向き合い、ディスカッションしたいと思っています。
一人ひとりが自分で文化を進める力を育てていくのが大学教育のあり方だと思います。私自身も研究を通して世界とつながることができました。次は、塾生のみなさんが新しい世界を知る一助になれたら嬉しいですね。塾生には何事にも臆さず、どんどん新しいことに挑戦してもらいたい。私も英語ができないのにアメリカの環境に飛び込んで自分の人生が変わりました。苦手だと思っていた研究もやり続けるうちに仕事になっていました。若いうちに新しいことにどんどん挑戦してほしいです。サポートする体制は慶應義塾には整っています。資金面でもそうです。私たち研究者には福澤基金の支援。塾生には小泉基金などの支援、新しいことに挑戦するために基金が用意されているのは、本当にありがたいことです。

Q. 塾員のみなさまにメッセージをお願いします。

A. 基金の恩恵を受け、半学半教で研究活動を進めていきたい


単科の大学とは違い、慶應義塾は人的交流も盛んです。総合大学のメリットを活かして薬学部と医学部、理工学部が一緒に研究活動を行なったり、私の所属する薬剤学講座では医学部の産婦人科学教室と一緒に帝王切開の際の胎盤を使って共同研究を実施しています。
これらの研究活動は福澤基金をはじめ、いろいろな基金の恩恵により発展し、視野を広げることができました。資金の支援は私たちの研究を推進する大きな原動力になっています。寄付をいただいた塾員のみなさまのおかげで研究をさせていただいていることに感謝を申し上げます。いただいた資金によって半学半教で研究を進め、私自身が薬学の世界を先導できるよう精進したいです。そして、薬学の世界を先導できる塾生を輩出するため、研究を通して教育を一層充実させていきたいと思っています。

※掲載内容は2020年9月14日現在のものです。

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