インタビュー:雨宮 清さん 小泉基金へのご寄付者/雨宮クリニック 理事長

若人よ、熱くなれ。そして壁を越えろ。

昭和44年に慶應義塾大学医学部を卒業され、慶應義塾大学病院の産婦人科で勤務し、神奈川県のけいゆう病院で部長職などを歴任した後、横浜市に雨宮クリニックを開業された雨宮清さん。現在、同クリニックの理事長として、産婦人科の最前線でさまざまな患者さんを診察していらっしゃいます。日差しがまぶしい夏の日、小泉基金へご寄付をいただいた雨宮さんの思いを本学三田キャンパスでうかがいました。

Q.1 本学医学部卒業後、産婦人科専門医を続けてこられた思いは?

患者さんを助けたい一心で今日までやってきた

慶應義塾大学病院に勤めていたときは、全国各地の病院に出張で応援に行きました。短期の場合もあれば、長期になる場合もあります。お産の立ち合いから手術まで産科、婦人科のあらゆる業務を経験してきました。神奈川県のけいゆう病院にいた当時、最も多いときは1カ月に180件のお産に立ち会いました。それ以外にも手術をこなし、朝始まって夜の7時、8時まで手術室に入りっぱなし。産科は人手不足だったということもあり、今思えばほんとに良く働いていましたね。
手術は良性・悪性の区別なくかなりの数を手掛けました。ステージ3のがん患者さんの手術を成功裏に終わらせたこともありました。今でも生存されている患者さんもいます。やはり人の命に関わることですから、患者さんを助けたい一心ですね。私がお産や手術に臨むときの気持ちは、これに尽きます。患者さんは医者に頼るしか方法がありませんから、なんとかしてあげたい。この気持ちで約50年医療の現場でがんばってきました。

Q.2 小泉基金にご寄付いただいたのはどのような思いからですか?

若い人を応援することが恩返しになる

私は慶應義塾志木高校に入学し、医学部へ進んで卒業後は慶應義塾大学病院で勤務しました。現在でも塾員として大学医学部と縁があると思っています。医師というのは、生涯勉強しなければなりません。その知識の源泉は大学であり学会であり雑誌ネット等さまざまありますが、なかでも出身大学からの動向が一番大事であると思っています。私にとって、慶應義塾は「ふるさと」です。素晴らしい学校です。だから、今後も伸びてほしい。私はこれまで、医療の研究や仕事に打ち込んできました。そして今、慶應義塾にどんな恩返しができるのかと考えたとき、若い人たちを応援することだと思ったのです。
この先、どんどん人口は減少していきます。数十年後、日本はどうなるのでしょうか。これからの時代を考えると、人材の育成が大切になってくるはずです。一人ひとりの人間を育てていかなければならない。それが私たち塾員の役割だと思います。しかし、教育にはお金がかかる。だれもが平等に教育を受けられるように、勉学に励む若い人たちのもとに広く届くような寄付ができないか。そう考え、若い人たちを育てる資金として使ってほしいと思いました。

Q.3 慶應義塾についてどのような印象を持っていらっしゃいますか?

ほかの学校とは違う「半学半教」の精神

慶應義塾は、ほかの学校とは違うのではないかと思います。医学部で最初に言われたことは
「医者が患者さんの病気を治したと思うな、人間は誰でも自然の治癒力を持っている。それを手助けするのが医者である」と医者に自戒を促し傲慢になるなと教えられました。それから後に創設者の福沢先生が北里柴三郎博士(初代医学部長)に贈った「贈医(医に贈る」と命名した七言絶句の漢詩が教育理念として受け継がれ医学部の北里図書館に飾られています。この漢詩には、「医師 道(い)うを休(や)めよ自然(しぜん)の臣(しん)なりと」という言葉があります。この言葉の意味は人間と自然との限りない知恵くらべですばらしい眼力と行き届いた手をもってあらゆる手段を尽くして患者の治療を主導すべきであると知り、今日の医療のあり様を見越したような先生の慧眼ぶりにはただ驚くばかりです。この考えに基づいて慶應医学があるのだと思います。
医者は常に新しいことを学び、創造し、発展させていく必要がありますが、そのための謙虚な心を忘れてはいけません。まさに福澤先生がおっしゃった「半学半教」の精神が大切です。教師と学生がお互いに学び、お互いに教えあう。それが学問だという精神。まさしく医学の現場もその通りなのです。自分の経験を若い人に教えるとともに、新しい技術を学んでお互いを高めていく。そのような教えや精神こそ、慶應義塾がほかの学校と違うところです。

Q.4 塾生をはじめ若い人たちにメッセージはありますか?

一歩前へ踏み出すと、新しい世界が広がっている

先にも述べた慶應義塾ならではの精神のもとで、思い切り挑戦してほしい。挑戦することで不可能を可能にすることができます。そうして、いろいろと伸ばしていってほしいですね。医療の世界でも同じです。新しい取り組みをするのが怖くて尻込みしている人が多い。そこを乗り越えて、挑戦していく姿勢が世の中を変えていくのです。
自分が自信を持ってやったことなら、熱意を持って説明すれば、だれもが分かってくれると思います。逃げたら絶対にダメ。熱意はみんなに届くのです。何事も熱意ですよ。声を大にして言いたい。若人よ、熱くなれ。そして壁を越えろ。現在いるところから一歩前へ踏み出してみると、必ず新しい世界が広がっています。塾生のみなさんには、せっかく恵まれた場所で学んでいるのだから挑戦しようと言いたいですね。若い人たちには、本当にがんばってほしいと心から思います。そして諸先輩方が築いてきた慶應義塾の良い伝統を、未来につないでいってほしいです。

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